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東京地方裁判所 平成8年(ワ)8323号 判決 1998年3月23日

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告らは、各自、原告甲野太郎に対し、金五六二二万〇七八二円及びこれに対する平成八年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告甲野花子に対し、金五四七二万九二三〇円及びこれに対する平成八年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、各自、原告シグナ・インシュアランス・カンパニーに対し、金五〇一万四五四〇円及びこれに対する平成八年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告甲野夫婦が、マンションの居室の火災により子供を亡くし、家財等を焼失したのは、被告三洋電機株式会社(以下「被告三洋電機」という。)が製造し、被告株式会社ダイエー(以下「被告ダイエー」という。)が販売したテレビによる発火が原因であるとして、原告らが、債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を求めている事案である。

一  基礎となる事実

1 原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)と同甲野花子(以下「原告花子」という。)は、平成四年九月一五日婚姻し、同五年一月長男一郎を、同六年一一月長女春子をもうけ、同八年二月一一日当時、東京都足立区《番地略》所在の乙山ハイツ二〇二号室(以下「本件居室」という。)に居住していた(争いのない事実)。

2 平成八年二月一一日午後六時四五分ころ、本件居室において火災が発生し(以下「本件火災」という。)、当時本件居室に所在していた一郎、春子は、翌一二日、いずれも一酸化炭素中毒により死亡した(争いのない事実)。本件火災当時、原告太郎及び同花子はいずれも外出していた。

3 原告太郎は、本件火災に先立つ平成七年一二月一九日、原告シグナ・インシュアランス・カンパニー(以下「原告シグナ」という。)との間で、本件居室について家財保険を含む住宅総合保険契約を締結した。

二  原告らの主張

1 本件火災の原因

本件火災は、被告三洋電機が製造し、原告太郎が平成六年六月被告ダイエーの経営するトポス北千住店から購入したカラーテレビ(C-25FD1型、以下「本件テレビ」という。)が何らかの原因により発火し、その火が燃え広がったことによるものである。

すなわち、本件居室のうち焼損した箇所が本件テレビが設置されていたダイニングルームの南東隅の約半畳にも満たない極く限られた部分であること、焼損した家財は本件テレビ、そのテレビ台及びそこに収納されていたビデオデッキのみであること、特に本件テレビはその内部前面側のコントロールユニット信号回路が原形を失うほど焼失し、その焼損の程度が著しいこと、次に述べるとおり、在室した子供による弄火など本件テレビが外部の火源により着火し焼損した可能性がないことからすれば、本件テレビが出火原因であることは明らかである。

被告らは、一郎ら子供の弄火が本件火災の原因であると主張する。しかし、本件火災当時、本件居室内にライターは存在しなかったし、ただ、通称「チャッカマン」といわれるガス器具点火用のライター(以下「チャッカマン」という。)が存在したが、これは子供には絶対に手の届かないところに掛けてあり、したがって本件居室内に火源となるようなものは存在しなかったこと、原告太郎は新聞類をとっておらず、本件居室内には紙類等の点火の媒介物となるようなものもなかったこと、燃焼実験の結果から窺われるとおり、本件テレビのキャビネットに外部から着火することは極めて困難であることからすると、子供による弄火が原因で本件テレビに着火した可能性はない。

そして、本件テレビは、原告太郎が平成六年六月に購入後、約一年八か月間通常の用法により使用されてきたものであるから、本件テレビの発火はその製造時に存在した何らかの欠陥によるものというべきである。

2 被告らの債務不履行責任

(一) 被告三洋電機は、製造者として、消費者に対し、その製造する製品の欠陥により消費者の生命、身体、財産上の利益を侵害しないよう配慮すべき信義則上の義務を負い、あるいはそのような配慮をすべき注意義務を含む品質保証約束をしているところ、本件火災は同被告の製造した本件テレビの欠陥に基づく発火により発生したものであるから、被告三洋電機は、原告らに対し、債務不履行に基づき、本件火災により生じた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告ダイエーは、大規模販売業者として、消費者に対し、製造業者とは異なる独自の立場から、その販売する商品について品質保証の約束をしているというべきであり、右品質保証約束には、消費者の生命、身体、財産上の利益を侵害しないよう配慮すべき信義則上の注意義務をも含むものであるところ、本件火災は同被告が販売した本件テレビの欠陥に起因する発火により発生したものであるから、被告ダイエーは、原告らに対し、右品質保証約束に反した債務不履行に基づき、本件火災により生じた損害を賠償すべき義務がある。

3 被告らの不法行為責任

被告三洋電機は、製造者として、製品の設計、生産、市場供給後の各段階において、また、被告ダイエーは、大規模販売業者として、その販売をなすに当たり、それぞれ、その時代の最高の科学技術の水準を基礎として、製品について起こり得る危険を予見し、それを防止すべく適切な結果回避の措置をとるべき高度の安全確保義務を負うところ、本件火災は、被告らが右義務を懈怠して欠陥のある本件テレビを製造し、また、流通においた重大な過失により、本件テレビから発火して生じたものであるから、被告らは、原告らに対し、不法行為に基づき、各自連帯して、本件火災により生じた損害を賠償すべき義務がある。

4 原告らの損害

(一) 原告太郎

(1) 一郎、春子の逸失利益、慰藉料の相続分 四三七二万九二三〇円

一郎の逸失利益は二九四五万五六一〇円、同人の慰藉料は二〇〇〇万円、春子の逸失利益は一八〇〇万二八五一円、同人の慰藉料は二〇〇〇万円であり、原告太郎は右の総和に法定相続分二分の一を乗じた額を相続した。

(2) 固有の慰藉料 六〇〇万〇〇〇〇円

(3) 葬儀費用 一四九万一五五二円

(4) 弁護士費用 五〇〇万〇〇〇〇円

(合計 五六二二万〇七八二円)

(二) 原告花子

(1) 一郎、春子の逸失利益、慰藉料の相続分 四三七二万九二三〇円

(2) 固有の慰藉料 六〇〇万〇〇〇〇円

(3) 弁護士費用 五〇〇万〇〇〇〇円

(合計 五四七二万九二三〇円)

(三) 原告シグナ

(1) 保険代位求償権 四四一万四五四〇円

原告シグナは、原告太郎との間の住宅総合保険契約に基づき、同原告に対し、家財等の損害に対する保険金として四四一万四五四〇円を支払ったため、右金額の限度で、被告らに対する損害賠償請求権を取得した。

(2) 弁護士費用 六〇万〇〇〇〇円

(合計 五〇一万四五四〇円)

5 よって、原告太郎は、被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、五六二二万〇七八二円及びこれに対する債務不履行又は不法行為の日である平成八年二月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告花子は、債務不履行又は不法行為に基づき、五四七二万九二三〇円及びこれに対する債務不履行又は不法行為の日である平成八年二月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告シグナは、五〇一万四五四〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年五月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

三  被告三洋電機の主張

本件火災は本件テレビの発火によるものではなく、被告三洋電機は損害賠償責任を負うものではない。

すなわち、本件テレビの本件火災前の状況、火災後の焼損状況などからすると、本件テレビから発火したとは認められない。むしろ、一郎が本件火災前ライターに興味を抱いていたこと、本件火災前後の本件居室の状況から推測される一郎ら子供の行動、ライターの存在の可能性、チャッカマンの存在及びその位置などからすると本件火災は子供の弄火によるものというべきである。

四  被告ダイエーの主張

原告らは本件テレビの設計、製造過程に関わる欠陥に起因する責任を問題としているが、被告ダイエーはテレビの設計、製造過程に関わる欠陥に起因するテレビの危険性に影響を与える地位にあるものではなく、単にその流通過程に関与したにすぎないから、テレビの欠陥について何らの責任も負うものではない。

なお、本件テレビの本件火災前の状況、火災後の焼損状況からすると、本件火災が本件テレビにより生じたとは言えず、むしろ、本件火災は子供の弄火によって生じたものと考えるのが自然である。

五  主要な争点

本件火災は本件テレビの発火によるものか。

第三  当裁判所の判断

一  本件居室の状況及び出火箇所

1 本件火災前後の本件居室内の状況

(一) 前記基礎となる事実に《証拠略》を総合すれば、本件火災前後の本件居室内の状況について、次のとおり認められる。

(1) 本件居室は乙山ハイツの二階南東角に位置するいわゆる3DKの間取りの部屋(床面積五九平方メートル)であり、東側及び南側にベランダがある。東側ベランダに接して北から順に五帖の洋室、六帖の和室、四・八帖の洋室があり、六帖の和室と四・八帖の洋室の西側に九帖のダイニングキッチンがある。ダイニングキッチンは北寄りの三帖のキッチンと南寄りの六帖のダイニングルームから構成されている。

(2) ダイニングルームには、南東隅に木製のテレビ台があり、その上に本件テレビが、テレビ台の中にビデオデッキがあった。また、ダイニングルームの南側から西側にかけてL字型のソファーがあり、ダイニングルームの中央には円形のテーブルがあった。

(3) 平成八年二月一一日午後六時ころ、原告花子が本件居室から外出し、同室内には当時三歳の一郎と一歳三か月の春子が残されたが、二人とも起きていた。

(4) 本件火災は同日午後六時四五分ころ発生したが、本件火災直後の本件居室内の状況は次のとおりである。

<1> トイレは扉が施錠されており、内部には石油ファンヒーターの灯油カートリッジと灯油のポリタンクがあった。また、洗面所も扉が施錠されており、内部には灯油カートリッジの入っていない石油ファンヒーターとゴミ箱などがあった。

<2> キッチンの流し台の東側の床上には戸棚の引出しとチャッカマン(中央円形部分の内側にある引き金を引くと点火する棒状のガス器具点火用のライター)が落ちていた。ガス台下の開き戸の把手はビニールひもで、流し台下の開き戸の把手はハンカチでいずれも縛られていた。

<3> ダイニングルームのうち、南東隅付近には焼損した本件テレビの残存物、その下にビデオデッキ、さらにその下にテレビ台の底板が一塊になってあり、テレビは一部の金属部品を残すのみとなるほど焼損していた。

南東隅付近の壁面、床面の焼損は著しく、その周囲には真っ黒な焼損物が散乱していた。本件テレビ北側の床上には自動車のおもちゃ数個があり、そのすぐ西の床上には焦げた紙ようのものがあった。

円形テーブルの上には赤い本が一冊置いてあり、同テーブルの東側床上には青い電車のおもちゃ一個が置いてあった。

L字型のソファーはダイニングルームの南東隅に面している東側面が焼け、ソファーの上には紫色と黄色の衣類があった。

ダイニングルームの南東隅以外の部分は、壁や天井が黒く煤けているところがあるものの、焼損している部分はほとんどなかった。

<4> 六帖の和室は、壁や天井が黒く煤けており、溶融変形した蛍光灯カバーが落ちていたが、他に焼損している箇所はない。畳の上にガスレンジの魚焼き用受け皿があった。

<5> 四・八帖の洋室も壁や天井が黒く煤け、蛍光灯が変形溶融しているが、他に焼損している箇所はなかった。

<6> ダイニングルームと六帖の和室、四・五帖の洋室との境目にある柱の前の床上には片手鍋があった。

2 本件火災の出火箇所

右の事実によれば、本件火災による本件居室の焼損状況は、ダイニングルームの南東隅付近の焼損が著しいのに対し、ダイニングルームの他の箇所やダイニングルームに隣接する他の部屋は壁や天井が黒く煤けるなどしているもののほとんど焼損していないこと、ダイニングルームの南東隅に置かれていた本件テレビ及びビデオデッキはいずれも一部の金属部品を残すのみとなるほど焼損しており、特に本件テレビの焼損は著しいことが認められ、本件火災は、本件テレビ等が置かれていたダイニングルームの南東隅付近から出火したと認められる。

二  本件火災の原因

1 本件テレビの発火

(一) 《証拠略》によれば、本件テレビの焼損状況について、次のとおり認められる。

(1) 本件テレビの内部は、電源偏向ユニット、信号処理ユニット、コントロールユニットから構成されており、正面から見て右側に電源偏向ユニット、左側に信号処理ユニット、両者の前方にコントロールユニットが位置する。

(2) 電源偏向ユニットは、若干収縮し、基板が前面左右両端から内側にかけて一部焼失している。右基板に残っているパターン(銅箔)は一〇〇ボルト回路及びフライバックトランスであり、このパターン部分に電気的な溶融はない。右基板上のフライバックトランス・コンデンサー等の部品はいずれも前面側の焼損が著しい。

(3) 信号処理ユニットは、若干収縮し、基板が前面左右両端から内側にかけて一部焼失している。右基板に残っているパターンはIC等を制御する弱電回路であり、このパターン部分に電気的な溶融はない。右基板上のICの金属製放熱板は前面側の上部が変形し、ひび割れているが、奥側に変形やひび割れはない。コンデンサー等の部品も前面側の焼損が著しい。

(4) コントロールユニットは原形がないほど焼損しているが、残渣物については、電源スイッチの一〇〇ボルト系(低圧)の部分も含めて、短絡痕はない。

(二) 右の事実によれば、本件テレビ内部のうち、前方に位置するコントロールユニットは原形がないほど焼損しているのに対し、後方に位置する電源偏向ユニット、信号処理ユニットにおいて焼失しているのは両ユニットの基板の前面左右両端から内側にかけての一部であること、残存している個々の部品を見ても、電源偏向ユニット基板上のフライバックトランス・コンデンサー等の部品、信号処理ユニット基板上のICの金属製放熱板やコンデンサー等の部品はいずれも前面側の焼損が著しいことが認められ、これらの状況からすると、本件テレビはコントロールユニットのある前方部分から電源偏向ユニット及び信号処理ユニットのある後方部分にかけて燃焼していったことが認められる。

ところで、《証拠略》によれば、テレビから発火した場合には通常電気的な溶融痕や短絡痕が認められること、コントロールユニットには高圧部分がなく、電源スイッチの一〇〇ボルト系(低圧)の部分を除き、短絡しても発火するだけのエネルギーがないこと、テレビの発火事故例では、フライバックトランス等の高圧部分からの出火や発煙が主たるものであることが認められる。

(三) 右認定の本件テレビの焼損状況等に照らして考えると、テレビから発火した場合に通常認められる電気的な溶融痕や短絡痕が本件テレビから全く発見されておらず、本件テレビから発火したことを客観的に裏付ける資料が本件テレビの残存物から発見されていないこと、本件テレビが発火したと仮定する場合、本件テレビの前方にあるコントロールユニット部分から発火したことになるが、右コントロールユニット部分には発火事故が生ずる可能性の高い高圧部分がない上、その残渣物からは、一〇〇ボルト系(低圧)の部分も含めて、発火の原因となりうる短絡痕が発見されなかったことからすれば、原告らの主張する本件テレビが発火して本件火災が発生したという可能性は乏しく、その蓋然性が高いと認めるには足りないというべきである。

2 子供の弄火

(一) 前記一1(一)(4)において認定した事実及び《証拠略》によれば、本件居室のトイレ及び洗面所に石油ファンヒーターの灯油カートリッジ、灯油のポリタンク、灯油カートリッジの入っていない石油ファンヒーター、ゴミ箱などがあり、トイレ、洗面所のいずれも扉が施錠されていた(前記一1(一)(4)<1>)のは、一郎が石油ファンヒーターから灯油カートリッジを引き抜こうとすることがあったため、あるいは灯油のポリタンクやゴミ箱でいたずらをすることのないように、原告花子がトイレないし洗面所にこれらの物品を収納し、施錠しておいたものであることが認められ、また、《証拠略》によれば、キッチンのガス台の開き戸の把手、流し台の開き戸の把手がいずれも縛られていた(前記一1(一)(4)<2>)のは、春子が引出しを開けることのないように、原告花子がしたものであることが認められ、これらからすると、一郎、春子が普段から本件居室内の備品をいじり、あるいはいじるおそれのあったことが窺われる。

また、右認定事実及び《証拠略》によれば、キッチンの流し台の東側床上の戸棚の引出し(前記一1(一)(4)<2>)、ダイニングルームの本件テレビ北側の床上の自動車のおもちゃ、円形テーブルの東側床上の青い電車のおもちゃ、円形テーブル上の赤い本、ソファーの上の衣類(同<3>)、六帖の和室の畳上の魚焼き用受け皿(同<4>)、ダイニングキッチンと六帖の和室、四・五帖の洋室との境目にある柱の前の片手鍋(同<5>)は、いずれも原告花子が外出する際にその場所にはなかったものであることが認められ、原告花子の外出後、一郎あるいは春子が遊んでいる際に移動させたものであると認められる。

そして、移動された物品の多くが本件テレビ周辺あるいはダイニングルーム付近にあることからすると、原告花子の外出後、室内に残された一郎、春子はキッチン、四・五帖の洋室などからダイニングルームに各種の物品を持ち寄って、本件テレビ付近を中心として遊んでいたものと推認することができる。

(二) 右(一)の事情に加え、原告太郎と同花子がいずれも喫煙者であり、本件火災の数日前には本件居室内の数箇所に複数のライターが存在していたため、本件火災当時も本件居室内にライターが存在した可能性を否定できないこと、本件火災前、ダイニングルームの円形テーブルあるいはソファーの上には数冊の本ないし絵本があったこと、一郎は、本件火災の二、三日前にも使い捨てライターの発火装置をいじって遊んでいたこと、テレビが置いてあった木製のテレビ台は底板を除きその余の部分は焼失していること、前認定のとおり本件テレビはその前方部分から後方部分にかけて燃焼していったことを総合すると、普段から本件居室内の物品をいじる傾向にあった三歳の一郎あるいは一歳六か月の春子が、原告花子の外出後、本件居室内のキッチンなどにあった物品をダイニングルームに持ち寄るなどして本件テレビ付近で遊んでいる際、ライターやチャッカマンなど何らかの火源により、絵本その他の紙類などを媒介物としてあるいはこれを介さず直接に、本件テレビ前方部分あるいはテレビ台など本件テレビ前方周辺の物品に着火し、本件テレビをその前方から焼損して本件火災を惹起させたということが十分考えられるところであり、その蓋然性がないとはいうことはできない。

(三) 以上に対し、原告らは、ライターは本件居室内には存在しなかったと主張し、《証拠略》中には、ライターは二、三日前にすべて処分したとの記載及び供述部分がある。しかしながら、原告花子は、本人尋問において、本件居室内のあちこちから片手に一握りくらいのライターを処分したと述べるものの、その具体的な個数や置いてあった場所についてはあいまいな供述をしており、本件居室内に存在した複数のライターのすべてをくまなく確認して処分したかどうかについては、疑問を抱かざるを得ない。

また、原告らは、チャッカマンは子供には絶対に手の届かないところに掛けてあったと主張し、《証拠略》中には、チャッカマンは食器棚の南側面に貼り付けられたフックに掛けてあったから、子供には手が届かない旨の記載及び供述部分がある。しかしながら、本件全証拠によっても、食器棚にフックが張り付けられていた形跡は認められないし、フックが貼り付けられていた位置について、原告花子は、《証拠略》では、床から一五〇ないし一六〇センチメートルであったと述べていたのに、本人尋問においては、床から一七五ないし一八〇センチメートルであると述べたり、食器棚が一九〇センチメートルで、その上から一五ないし二〇センチメートルであると述べるなど供述を変遷させている上、本件火災前にチャッカマンが食器棚の南側面のフックにかけられていたとすると、前記認定のとおり、本件火災後チャッカマンが流し台の東側の床上に落ちていたことを合理的に説明することができないのであり、結局、この点に関する原告花子の供述はにわかに信用することができないというべきであり、原告らの右主張も採用することができない。

さらに、原告らは、燃焼実験の結果から、本件テレビのキャビネットに外部から着火することは極めて困難であると主張し、甲三〇(試験成績書)及び三一(ビデオテープ)を提出する。しかしながら、これらはいずれも本件テレビのキャビネットとは違う材質の物に対する燃焼実験の結果を記録したものであって、本件に適切でないばかりか、右実験に使われた材料は本件テレビのキャビネットの材料よりも発火点の高い物質であるにもかかわらず、一定の条件の下で燃焼していることが認められるのであり、かえって、本件テレビのキャビネットが燃焼性のものであることを示しているのである。したがって、この点の原告らの主張も採用することができない。

そうすると、子供による弄火など本件テレビが外部の火源により着火し焼損した可能性がないとの原告らの主張はこれを是認することができない。

3 原告らは、本件火災の原因は、本件テレビの発火によるものである旨主張し、なるほど本件火災の出火箇所は、前記認定のとおり本件テレビが置かれていたダイニングルームの南東隅付近であることが認められる。しかし、右1に判示したとおり、本件テレビ(その前方にあるコントロールユニット部分)が発火して本件火災が発生した可能性は乏しく、本件テレビ自体が発火した蓋然性が高いと認めるには足りない上、右2のとおり本件テレビの前付近で遊んでいた原告夫婦の子供の弄火により本件テレビに着火して本件火災が発生したと窺わせる諸事情が認められるのであるから、本件火災が本件テレビの発火によるものと推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もないので、原告らの右主張は採用することができない。

第四  よって、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(裁判長裁判官 下田文男 裁判官 生島弘康 裁判官 吉田純一郎)

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